「STRAY」
2020年 アメリカ
監督:エリザベス・ロー
俳優:イスタンブールの野良犬たち
イスタンブールの野良犬を犬目線で撮ったドキュメンタリー映画。
野良犬を主人公にすることによって、イスタンブールに住むシリア難民の子供たちや、社会の下層に生きる人々の生活を浮かび上がらせているのだろう。
アザーンに合わせて遠吠えする主人公の犬はまったく演出されていないという。なにか古代ギリシャの哲学者のような顔をしているように見える不思議な雰囲気を持った犬だ。
パンフレットによると、トルコでは20世紀初頭に大規模な野良犬駆除が行われた歴史への反省から、野良犬の捕獲や安楽死が違法となったことから、イスタンブールの街全体が犬に優しいという。しかし、トルコのある街で、ピットブルが人間を襲った事件をきっかけに2021年に、エルドアン大統領が「トルコの野良犬をすべて捕獲せよ」との命令を非公式に下したために、なん週間にもわたってトルコの多数の街で野良犬の捕獲が行われた。監督にはそれがトルコ経済の悪化や、世界的なパンデミックなどの社会不安から、人々の目を逸らすための政治的な行為に思えている。そうしたことからも、この映画がイスタンブールの最下層の抑圧された人々の描写でもあると思われる。野良犬を直訳すればstray dogだが、「STRAY」という原題は、この監督が香港で生まれ育ちロサンゼルスで住んでいるということを考えると、新約聖書の「stray sheep=迷える子羊」をイメージしているのではないだろうか。
パンフレットの監督の言葉を引用する。
”今日、自由に歩き回っているすべての犬は抵抗の象徴であり不寛容にもめげない生ける「思いやりの印」なのです。”