kiyomizuzaka48の日記

一日一日を楽しく暮らしている老人の暇つぶしです。使用しているカメラはZ50とZ6とCOOLPIXーW300です。適当に撮って楽しんでいます。

音楽と生命



音楽と生命
著 者:坂本龍一福岡伸一
発行所:集英社

坂本龍一は世界的に有名な音楽家福岡伸一分子生物学者として遺伝子や酵素の研究をしてきた研究者である二人が生命や地球環境とは何か、生きるとはどういうことかといったことについてそれぞれの専門分野からさらに他の分野にまで及んでアプローチした対談集。
最初に坂本龍一が「一方向に進む時間の中で」と題して書いているように、生命について考える時にこの考え方が基本だと思う。最近では生命を情報としてとらえる人たちがいて、ネット上に広がった情報網を生命ととらえる試みがなされている。そこからは私という存在は単なる情報として再生も拡大拡散も削除も可能になる。が、はたして情報化された私は、有機物としての肉体を持つ私と同じなのかどうか。
私は理論物理学者の「時間」概念について疑問に思っている。例えばタイムマシンによるパラドクスは物理学者よりSF小説家などにより深化され、やがて物理学者自身がどうやらタイムマシンは製造できないようだなどと言うようになったようだが、そんなことより思考実験としてタイムマシンに乗って時間を移動するとはどういうことか、移動している肉体の持つ時間はどうなるのだと考えればわかることでしょと思う。
これらは自然を数値化することによる簡略化によって、そこから多くのことがらが抜け落ちていることに無自覚なことから起きている。自然を数値化できるのは、人間という肉体・感覚器官をもった生物が認識できる範囲内のことだと最初から自覚しておくべきことなのだ。さらに数値化だけでなく言語化ということまで深化させて論及している。<福岡 古代ギリシャヘラクレイトスピタゴラスといった哲学者たちは、自然というものを混沌としてノイズだらけだけれども豊なものだというビジョンを持っていました。ソクラテスプラトンが登場し、イデアのような概念がうまれてから今日に至るまで、特に英語文化圏の中には、世界をロゴスによって抽出してきた営々たる歴史が非常に強固にありますね。>
<坂本 人間の思考の枠組みはロゴス的なことによって形作られているので、音楽も科学も、それから日常生活まで含めて、僕たちは無意識のうちに、ロゴスによって固定化された方法で世界を見たり体験したりしているんですよね。>
そしてAIについては
<坂本 AIは正解を一つしかないと判断しますが、一つの正解だけがあってあとは間違いというのは、音楽にもアートにもそれから生命にもありません。常に間違いを繰り返しつつ、進んでいるのが、生命ですよね。>
<坂本 そういうエラーが起こりつつ進むというところは、決められたルールの中で勝ち負けをはっきりさせるAIにはよくわからないはずです。AIに、音楽やアート、あるいいは生命や宇宙というものを本当に理解することはできないと、僕は思いますね。>


私たちは学校教育の中で生命の進化は必然であり、生物は自然環境に適応したものだけが生き残って来たと教えられてきた。この世は弱肉強食だと。しかし、近年の生物に関する様々な発見は一方的にただ食べられている生物はいないとか、生態系の頂点にたっているとされる生物も最底辺にあるとされる生物としっかり影響しあって生きていることが知られるようになった。キノコのような菌が森全体の生態系に関与しているとか、異種植物間の情報伝達とか、今までの人間を頂点とした生命観から大きく変化しつつある。
環境問題への取り組みには様々な方法があるだろう。しかし、完全に政治問題にしている運動には私はなにも口出さないが、純粋な善意で環境問題を考えるには、もう一度「環境とは何か」と考える必要があると思っている。


文中の<>はこの書からの引用部分です。